じいちゃんの年賀状とルージュの伝言
2017年1月13日(金)じいちゃんから年賀状が届いた。
初めてだ。
というのも、私が今年初めてじいちゃんに年賀状を書いたから、その返事が来たのだ。
年賀状ありがとうございました
健康で頑張ってください
という文とともに、句が添えられていた。
初孫や心通いは年賀状
優しく生きる我が家の家訓
じいちゃんが句を詠むとは、
こんな字を書くとは、知らなかった。
そしてすごく嬉しかった。
じいちゃんは、お父さんのお父さんであり、一昨年亡くなったおばあちゃんの戸籍上の配偶者である。
大滝詠一の生まれ故郷に住んでいる。
今どき、富士山の山頂でも電波が入るのに、いつも圏外の山奥だ。
ほんとならもう寒中見舞いの時期だが、たぶん電波が入らないせいで世間より1週間ほど時間が遅れている。
それこそ、こうやってハガキでも書かないとまともに連絡もとれないのではないか。
最近、家電は無視される傾向だ。単に出るのが面倒くさいらしい。
私は長らく、じいちゃんが好きじゃなかった。
お母さんがよく悪く言っていたし、“百姓”って感じの小汚さで、家の中も雑然としていたからだ。
“農家”じゃなく、“百姓”だ。
田舎特有の変な遠慮のなさと、非常識さと、吝嗇な感じが、とても嫌だった。
おじいちゃんの“お”をつけるのも嫌になるくらいだ。
年末になると、寒くて汚いじいちゃん家に年越しに行くのが嫌だった。
圏外には、あけおめメールも届かない。
じいちゃんは、ある伝統芸能の踊りの庭元(家元と同義、ここでは庭元と呼ぶらしい)だ。私は、そのことについてよく知らない。
一昨年、おばあちゃんの葬儀でYさんという50歳くらいの男性と会った。
Yさんは、じいちゃんのお弟子さんで、20年ぶりくらいに会ったが私の記憶の中のYさんと全く変わっておらず、とても若く見えた。
Yさんは横浜の人だ。
庭元のお孫さんだからぜひ世話をしたいということで、私と弟は、東京に戻ったらご飯に連れて行ってもらう約束をした。
中華街でごちそうになった。
Yさんの口から出てくるじいちゃんは、私が知っているじいちゃんとは全然違う人だった。
延々、じいちゃんについて熱くレクチャーされた。
なぜ他人から自分のじいちゃんについて教えられているのかわからないまま、
私は大好物の海老マヨを食べていた。
いま現在、じいちゃんしか作れない藁のなんとかがある、とか、
誰も継がないのは血筋がもったいないとか、言われても。美味いからいいか。
子供のころから、じいちゃんにあまりいいイメージを持っていなかった私は、
どれも不思議な話だった。
なにがいいんだろう?そう思った。
こんなに人を惹き付けるほど強烈な何かを持ったじいちゃん。
Yさんが孫だったらよかったのに、と思った。
そうしたら御家の伝統も安泰だ。
いまだにその踊りのことはよくわからないし、知ろうともしていないが、
Yさんから色々聞いたおかげで、じいちゃんへの見方が変わった。
じいちゃんが平面から、立体になった。
今までは、お母さんに影響されすぎて、じいちゃん本人が見えていなかったのだった。
親を介した祖父としてではなく、じいちゃんと私なりの付き合いをしたいと思った。
血のつながった自分のルーツであるじいちゃんだと思わずに、田舎のジジイだと思えば、かわいくもある。
そう思った途端、じいちゃんに会いたくなった。寒くて汚い年越しも、ご一興だ。今年は帰れなかったので、思い立って年賀状を書いたというわけだ。
初孫や心通いは年賀状
優しく生きる我が家の家訓
まず、私は初孫ではない。
家訓も初めて聞いた。
やっぱりかわいいジジイではないか。
いつもどんぐりみたいなベレー帽かぶってるし。
家族間の思いとはフクザツだ。
赤の他人からいきなり家族になることもあったりして。
Yさんが、私にじいちゃんの新しい面を見せてくれたように、家族間の普遍のテーマと思われた嫁姑問題について、鮮やかな風を吹き込んだのが、『ルージュの伝言』だった。
私はまだ結婚したことがないが、ご多分に漏れず、嫁と姑は仲が悪いという思い込みがあった。
最初は“魔女の宅急便の曲だ、好き!”くらいにしか思っていなかったのだが、高校生くらいになって、すごいこと言ってるぞ!と気づいた。
旦那の浮気を張本人の母親にチクリに行く歌だ。
「不安な気持ちを残したまま」なのに悲壮感は全くなく、
浮気されても自分の実家じゃなくて、相手の実家に行くところが最高!
嫁と姑が仲良しだ。こんな嫁、いいなぁ〜。
人間関係ってフレキシブルでいいんだ、と気づいた。
家族でも、家族じゃなくても。
誰とでも、先入観から入りたくないな、って思った。
誰かを介した「その人」ではなく、「その人」と付き合いたい。
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じいちゃんの年賀状を眺めていたら、こんな考えが広がっていったのでした。
とりあえず2017年、家訓に従って生きるよう心掛けます。